ビジネス英語ドラマ 第8話 / 全10話 DAY 70 / 90

リーダーとして人を動かす

第8話「チームの反乱と結束」/Leading — When You Have No Authority Left

この回の状況

「I'm done.」 エレナは席を立った。健司には、彼女を止める権限が何ひとつ無かった。

着任70日目。日本本社から3度目の仕様変更が降りてくる。エレナが2週間かけて作り直した画面が、また白紙になる。彼女は I'm done. と言って席を立ち、チームは空中分解しかける。健司には彼女を止める権限が無い。ここで初めて、彼は本社の代弁者ではなく、このチームのリーダーとして話すことになる。

この回の目標席を立ったエレナを、最終プレゼンまでの20日に呼び戻す成功(2週間・2画面目のみで合意。代わりに2機能を中止)

登場人物

  • 健司Kenji Sato主人公。東京から出向したプロジェクトマネージャー(32歳・TOEIC850)
  • サラSarah Miller新規事業開発部 部長。健司を引き抜いた人。遠回しな英語の使い手
  • マークMark Stevensシニア・プロダクトマーケター。速い議論で場を引っぱる
  • エレナElena Rodriguezリード・プロダクトデザイナー。ユーザー視点を最優先する
  • デビッドDavid Chenファイナンス・リード。ROIとリスクで判断する
  • プリヤPriya Sharmaカスタマーサクセス・マネージャー。インド出身・在米6年

正しいのに、人が動かない

  1. 7

    Please understand. This is a decision from headquarters.

    事実だが、責任を他所に置いている。この一言で健司は決定に関与していない人になり、同時に交渉する価値も無い人になる。理解を求める側に回った時点で、リーダーではない。

  2. 9

    I am only the messenger in this case.

    自分を安全な場所に置いた。エレナの Then I don't need to talk to a messenger. がそのまま答えで、伝えるだけの人とは交渉が成立しない。守ってくれない相手のために、人は自分の時間を差し出さない。

  3. 25

    ( no )

    1月も3月も、エレナが正しかったのに東京へ伝えていない。エレナが怒っているのは3度目の仕様変更ではなく、二度とも守られなかったという事実のほう。ここを見誤ると、どんな言い方をしても届かない。

二つとも、事実としては正しい。ですがどちらも、自分を安全な場所に置いています。

この回のキーフレーズ6本

上が健司の英語(文法は正しいのに会議では通らない)、下が同じ場面で通る言い方です。

1 相手の信頼を失っていて、権限では動かせないとき。最初の一言として。

NGPlease understand. This is a decision from headquarters.

ご理解ください。これは本社の決定です。

責任を他所に置いている。理解を求める側に回った時点で、リーダーではなくなる。

OKYou were right, and I didn't listen.

あなたが正しかった。そして私は聞かなかった。直訳「あなたは正しかった。そして私は聞かなかった」

謝罪の最上位形。sorry を使わずに、相手の正しさと自分の不作為を同時に認める。後半が肝で、I didn't listen は「聞かなかった」という自分の行為の名指し。ここまで言うと相手はもう戦う理由が無くなり、話が過去から未来へ動く。失うものが無いときにだけ言える言葉で、逆に言えば、追い詰められたときにしか使えない最強のカード。

言い換え

  • You called it, and I ignored it.
  • You told me twice. I didn't act.
  • That was your read, and it was correct.

本編30番で実際に使われています

2 無理を承知で協力を求めるとき。

NGThis is important for the project, so please do it.

プロジェクトにとって重要なので、やってください。

相手の負担に一言も触れていない。重要かどうかを決めるのはこちらだ、という態度になる。

OKI know I'm asking a lot. Here's why it matters.

大きなお願いをしているのは分かっています。それでも重要な理由があります。直訳「私が多くを求めていると分かっています。これがそれが重要な理由です」

負担を先に認めてから意義を語る型。順番が命で、逆にすると押し付けになる。I know I'm asking a lot は、相手が言おうとしていたことを先にこちらが言ってしまう技でもある。言われる前に認められると、人は反論の出発点を失う。そのあとの why は、会社の都合ではなく、その人の仕事がどこに効くかで語る。

言い換え

  • This is a big ask. Here's the reason.
  • I'm aware of what I'm asking for.
  • I don't have a fair trade to offer. Here's why I'm asking anyway.

本編36番で実際に使われています

3 相手が「全部を要求されている」と感じているとき。

NGCan you just do it this one time? It is only two weeks.

今回だけやってもらえませんか。たった2週間です。

only や just で相手の負担を軽く見積もっている。当人にとって2週間は「たった」ではない。

OKI'm not asking you to compromise the design. I'm asking for two weeks.

デザインを妥協してくれと言っているのではありません。2週間ください、と言っています。直訳「デザインを妥協しろと言っているのではない。2週間を求めている」

要求の範囲を狭めて示す型。前半で「あなたが守りたいものは要求していない」と宣言し、後半で本当に必要な一点だけを出す。相手が最も恐れているのは、譲ったら全部持っていかれることなので、そこを先に閉じてやると交渉が始まる。not A, but B の対比構造で、A には相手の価値観を、B にはこちらの最小要求を置く。

言い換え

  • I'm not asking you to lower the bar. I'm asking for time.
  • Your standards stay. The scope moves.
  • I don't want the compromise. I want the calendar.

本編38番で実際に使われています

4 相手が渋々でも動く姿勢を見せた直後。

NGPlease do your best. I will support you.

がんばってください。私はサポートします。

サポートの中身が空。何をしてくれるのか分からないので、相手は何も当てにできない。

OKWhat do you need from me to make this work?

これを成立させるために、私に何をしてほしいですか。直訳「これを機能させるために、あなたは私から何を必要としますか」

支援を申し出る形のリーダーシップ。指示を出すのではなく、注文を取る。from me が肝で、これが無いと「何が必要?」という一般論になる。自分が動く前提で聞いているから、相手は遠慮なく要求を出せる。そしてここで出てきた要求こそが、本当のボトルネックであることが多い。エレナが出したのは人員でも時間でもなく、二つの機能の中止だった。

言い換え

  • What would make this possible?
  • Tell me what to take off your plate.
  • What do you need me to go break for you?

本編42番で実際に使われています

5 リソースが足りず、優先順位を確定させる必要があるとき。

NGLet's try to do everything if possible.

できれば全部やる方向で考えましょう。

優先順位を決める仕事を放棄している。結果、全部が中途半端になり、責任は現場に残る。

OKLet's decide together what we're not doing.

やらないことを、一緒に決めましょう。直訳「我々が何をやらないかを、一緒に決めましょう」

実務のリーダーが本当にやるべき仕事を一言にした型。やることを決めるのは誰でもできるが、やらないことを決められるのは責任を取れる人だけ。together が効いていて、これで中止の決定が二人のものになり、あとから誰かに責められたときに現場が一人で立たされない。健司が「我々の決定だと伝える」と続けたのがその実行部分。

言い換え

  • What are we cutting?
  • Let's pick what dies.
  • I'd rather drop two things well than do four badly.

本編44番で実際に使われています

6 協力の合意ができた直後。その場を離れる前に。

NGIf we succeed, it will be good for the team.

成功すればチームにとって良いことです。

チーム、という主語では誰の得にもならない。実際に評価されるのは言い出した人だけ、と相手は知っている。

OKIf this works, it's your win.

これが成功したら、それはあなたの成果です。直訳「これがうまくいけば、それはあなたの勝ちです」

手柄の帰属を、始める前に渡してしまう型。終わってから渡すのは当然のことで、価値は生まれない。始める前に渡すと、それは約束になる。your win と個人名指しにするのが肝。ここまでやって初めて、権限の無い相手に自分の時間を差し出してもらえる。ちなみにエレナはこれを断って「名前ではなく数字を言え」と返した。それも含めて、渡したことに意味がある。

言い換え

  • This is your name on it, not mine.
  • You get the credit. I'll take the risk.
  • If it lands, it's yours.

本編46番で実際に使われています

発音のポイント 強く言う場所(stress)

I'm not asking you to compromise the DESIGN. I'm asking for two WEEKS.どこを強く言うかで、意味が変わる

I'm not asking you to compromise the design. I'm asking for two weeks.コンプロマイズ・ザ・デザイン / トゥー・ウィークス を強く

  • 対比は強勢で作る:not A but B の文では、AとBの中身の語だけを強く言う。それ以外は流す
  • 強勢が無いと意味が消える:全部同じ強さで読むと、何と何を対比しているのか相手に伝わらない
  • 日本語話者は平坦になりやすい:日本語は高低で意味を作るので、英語の強弱をつけないまま話してしまう

発音より、どこを強く言うか。リーダーの言葉はここで決まります。

本編スクリプト(全48発言)

英語を読んでから和訳で確認してください。印は KEY=覚える表現、NG=文法は正しいのに通らない英語、 SOFT=本音を包んだ遠回しの言い方です。

場面1 3度目の白紙会議室 34-B / 9:15 AM

1健司

Tokyo sent a revision overnight. Screen two goes back to the tabbed layout.

東京から夜のうちに修正が来ました。2画面目はタブ形式に戻します。

2エレナ

The tabbed layout. The one we removed in March. Because it tested worst.

タブ形式。3月に外したやつね。いちばん成績が悪かったから。

3健司

Yes. Headquarters wants consistency with the Japanese product.

はい。本社は日本版との一貫性を求めています。

4エレナ

How many days did I spend on the current version?

今の版に、私は何日かけた?

5健司

...Nine.

……9日です。

6エレナ

Nine days. Plus six in March. Plus five in January. Third rewrite, same screen.

9日。3月に6日、1月に5日。同じ画面で3回目の作り直し。

7健司NG通らない失敗①

Please understand. This is a decision from headquarters.

ご理解ください。これは本社の決定です。

責任を他所に置いた瞬間、リーダーではなく伝書鳩になる

8エレナ

I know it's from headquarters, Kenji. You are headquarters. That's the problem.

本社からなのは分かってる、健司。あなたが本社なの。それが問題なのよ。

9健司NG通らない失敗②

I am only the messenger in this case.

この件では、私は伝えているだけです。

自分を安全な場所に置いた。ここでチームは彼を見放す

10エレナ

Then I don't need to talk to a messenger.

なら、伝書鳩と話す必要は無いわ。

11エレナKEY覚える決裂

I'm done. Give screen two to someone else.

もう無理。2画面目は誰か別の人に。

感情ではなく決定の宣言。ここから先は説得ではなく交渉

12マーク

(after a pause) Well. That's the ballgame.

(間のあと)ま、終わったな。

13デビッド

Twenty days to the review. Without a designer, there is no demo.

レビューまで20日。デザイナーがいなければ、デモは無い。

14サラSOFT遠回し遠回し

Kenji. I'm not going to fix this one.

健司。今回は私が収めるつもりはないわ。

見放したのではなく、渡した。ここからは健司の仕事

場面2 権限が無い34階 廊下 / 9:40 AM

15健司

Sarah. Can you talk to her? She reports to you, not to me.

サラ。彼女と話していただけませんか。彼女の上司はあなたで、私ではありません。

16サラ

I could order her back to the desk. She'd sit there and give you nothing for twenty days.

席に戻れと命令はできる。彼女は座って、20日間あなたに何も出さない。

17健司

Then what authority do I have?

では私にはどんな権限があるんですか。

18サラKEY覚える

None. That's the job. Authority works when there's slack. There is no slack.

何も無い。それがこの仕事。権限が効くのは余裕があるときだけ。今、余裕はゼロよ。

余裕が無い局面では、肩書きは何も動かさない

19プリヤ

Do you want the phrase for this?

この場面の型、要る?

20健司

Yes. Please.

はい。お願いします。

21プリヤKEY覚える核心

No. Not this time. There's no phrase that survives if the content is wrong.

だめ。今回は無し。中身が間違っていたら、生き延びる型なんて無いの。

型は中身を運ぶ器。中身が無いときは何も運べない

22プリヤ

Answer one question first. Was she right about the tabbed layout?

先に一つ答えて。タブ形式の件、彼女は正しかった?

23健司

...Yes. She was right in January and she was right in March.

……はい。1月も正しかったし、3月も正しかった。

24プリヤ

And did you tell Tokyo that, in January or in March?

それを東京に伝えた? 1月か3月に。

25健司NG通らない

(伝えていない。二度とも、健司は本社の側に立っていた)

エレナが怒っているのは仕様変更ではない。二度、守られなかったこと

26プリヤ

Then go say that. Not a phrase. That.

じゃあ、それを言いに行って。型じゃなく。それを。

27健司

If I admit that, I lose the authority I have left.

それを認めたら、残っている権限も失います。

28プリヤKEY覚える

You have none left. That's what makes it safe to say.

もう残ってないわ。だから言っても安全なの。

失うものが無いときだけ、本当のことが言える

29プリヤ

She's in the stairwell. She always goes to the stairwell.

彼女、非常階段にいる。いつもそこに行くから。

場面3 やらないことを決める非常階段の踊り場 / 10:05 AM

30健司KEY覚える本日の型

Elena. You were right, and I didn't listen.

エレナ。あなたが正しかった。そして私は聞かなかった。

謝罪の最上位形。事実の承認と、自分の不作為の名指し

31エレナ

(pause) Say the second part again.

(間)後半、もう一回言って。

32健司

I didn't listen. In January you said the tabs would test badly. I sent Tokyo's version anyway. In March, the same.

聞きませんでした。1月、あなたはタブは成績が悪くなると言った。私はそれでも東京の版を送った。3月も同じです。

33エレナ

Twice. And both times you told me it was headquarters.

2回。しかも2回とも、本社の決定だって私に言った。

34健司

I hid behind it. It was easier than telling Tokyo they were wrong.

それに隠れていました。東京に間違っていると伝えるより楽だったので。

35エレナ

...Okay. Keep going.

……そう。続けて。

36健司KEY覚える

I know I'm asking a lot. Here's why it matters. In twenty days, that screen is the demo. Not the deck. The screen.

大きなお願いをしているのは分かっています。それでも重要な理由があります。20日後、あの画面がデモそのものになります。資料ではなく、画面が。

負担を先に認めてから、意義を語る。順番が逆だと押し付けになる

37エレナ

And Tokyo? In twenty-one days they send revision four.

それで東京は? 21日後に4回目の修正を送ってくる。

38健司KEY覚える

I'm not asking you to compromise the design. I'm asking for two weeks. I'll take the revision fight with Tokyo myself.

デザインを妥協してくれと言っているのではありません。2週間ください、と言っています。東京との修正の話は、私が引き受けます。

要求の範囲を狭めて示す。相手が守るべきものを先に守る

39エレナ

You'll tell headquarters no. In writing. With your name on it.

本社にノーと言うのね。書面で。あなたの名前で。

40健司

With my name on it. I sent it at nine-fifty. You're copied.

私の名前で。9時50分に送りました。あなたもCCに入っています。

41エレナ

(checking phone) ...You already sent it. Before you came down here.

(携帯を見て)……もう送ってる。ここに来る前に。

42健司KEY覚える

What do you need from me to make this work?

これを成立させるために、私に何をしてほしいですか。

支援を申し出る形のリーダーシップ。指示ではなく注文を取る

43エレナ

Kill the onboarding tour. And the help widget. I can't do three things in twenty days.

オンボーディングツアーを消して。ヘルプのウィジェットも。20日で3つは無理。

44健司KEY覚える

Then let's decide together what we're not doing. Both are cut. I'll tell Mark and David it came from us, not from you.

では、やらないことを一緒に決めましょう。どちらも中止です。マークとデビッドには、我々の決定だと伝えます。あなたの決定ではなく。

やらないことを決めるのが、実務のリーダーの仕事

45エレナ

...Two weeks. Screen two only.

……2週間。2画面目だけよ。

46健司KEY覚える

Two weeks, screen two only. And if this works, it's your win. I'll say your name in that room.

2週間、2画面目だけ。そして成功したら、それはあなたの成果です。あの部屋であなたの名前を言います。

手柄の帰属を先に渡す。人が動くのは、最後にここが効く

47エレナ

Don't say my name. Say the number. If the number's good, everyone will find me.

名前は言わなくていい。数字を言って。数字が良ければ、みんな勝手に私を見つける。

48エレナ

Kenji. Nine weeks ago you would have sent me an email about this. Twenty days.

健司。9週間前のあなたなら、この話をメールで送ってきた。20日ね。

練習

まずはキーフレーズ6本を、声に出して2回ずつ。息継ぎなしで言い切れるまで繰り返します。

口の形ユーワ・ライ、アナイ・ディドゥン・リスン

ロールプレイ

状況を読んで、自分の英語を口に出してから答えを見てください。

場面1部下ではない相手の信頼を失っている。過去に彼女の指摘を無視した。最初の一言。キーフレーズ1

You were right, and I didn't listen.

あなたが正しかった。そして私は聞かなかった。

場面2相手は「全部を要求されている」と感じて身構えている。要求を狭めたい。キーフレーズ3

I'm not asking you to compromise the design. I'm asking for two weeks.

デザインを妥協しろとは言っていません。2週間ください、と言っています。

場面3相手が動く姿勢を見せた。こちらが何をすべきか、注文を取りたい。キーフレーズ4

What do you need from me to make this work?

これを成立させるために、私に何をしてほしいですか。

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