ビジネス英語ドラマ 第6話 / 全10話 DAY 38 / 90

タフな交渉

第6話「予期せぬ予算削減要請」/Hard Negotiation — Trading, Not Pleading

この回の状況

30%削減。健司は「同じアジア系なら分かってくれる」と思った。デビッドはサンノゼ育ちだった。

着任38日目。本社の業績悪化を受けて、デビッドから予算30%削減の通告が入る。作り直し中のオンボーディングは止まり、エンジニアは2人減る。健司は「同じアジア系だから分かってくれるはず」という甘えを抱えて交渉に臨み、完全に突き放される。さらにこの回は、マークの主張のほうが正しい。

この回の目標予算30%削減の中で、作り直しの完成までの11日を守る午前は失敗、午後に成功(金額は積み増し、期限を11日ずらして合意)

登場人物

  • 健司Kenji Sato主人公。東京から出向したプロジェクトマネージャー(32歳・TOEIC850)
  • サラSarah Miller新規事業開発部 部長。健司を引き抜いた人。遠回しな英語の使い手
  • マークMark Stevensシニア・プロダクトマーケター。速い議論で場を引っぱる
  • エレナElena Rodriguezリード・プロダクトデザイナー。ユーザー視点を最優先する
  • デビッドDavid Chenファイナンス・リード。ROIとリスクで判断する
  • プリヤPriya Sharmaカスタマーサクセス・マネージャー。インド出身・在米6年

形容詞は、1ドルも動かさない

  1. 7

    That is very difficult for us. Please reconsider.

    difficult も reconsider も、相手に何の判断材料も渡していない。財務は「困っている人」ではなく「失う額」で動く。英語のタフな交渉では、この一文はほぼ無音として扱われる。

  2. 17

    We come from the same background.

    見た目で相手を分類した。デビッドはサンノゼ育ちの2世で、文化は一切共有していない。これは交渉のカードにならないどころか、相手を怒らせる材料になる。属性ではなく利害で話す。

  3. 25

    ( no number )

    「削ると何ドル失うか」を用意していなかった。守りたいものの値段を自分で計算していないのに、守ってくれとは言えない。デビッドの come back when you have it は拒否ではなく、そのまま指示だった。

三つとも、丁寧で、誠実で、そして交渉としては何も起きていません。

この回のキーフレーズ6本

上が健司の英語(文法は正しいのに会議では通らない)、下が同じ場面で通る言い方です。

1 削減や変更を通告された直後。最初の一言として。

NGThat is very difficult for us. Please reconsider.

それは我々にとって非常に厳しいです。ご再考ください。

difficult も reconsider も判断材料が無い。相手は「困っている」以上の情報を得られない。

OKI understand the constraint. Here's what that costs us.

制約は理解しています。それで我々が失うものを申し上げます。直訳「その制約は理解しています。これがそれの我々にとっての費用です」

交渉の入り口を、抵抗ではなく受容にする型。I understand the constraint と先に言うことで、相手は防御を解く。そのうえで costs us と続けると、これは反対ではなく情報提供になる。相手は反論する対象を失い、数字だけを見ることになる。順番が命で、逆にすると単なる泣き言になる。

言い換え

  • I get why you have to do this. Here's the impact.
  • Understood. Let me show you the cost side.
  • That's fair. Here's what it breaks.

本編32番で実際に使われています

2 代償を数字で出した直後。判断を迫るとき。

NGIf you cut this, the project will fail.

これを削ればプロジェクトは失敗します。

脅しに聞こえる。しかも「失敗する」は主観なので、相手は反証して終わりにできる。

OKIf we cut X, we lose Y. Is that a trade you're willing to make?

Xを削ればYを失います。それは飲める取引ですか?直訳「もしXを削れば、我々はYを失う。それはあなたが進んで行う取引ですか」

6つの中で最強の型。削減と代償をセットで置き、最後に判断そのものを相手へ返す。ここで効いているのは willing to make で、これは「あなたが自分の意思で選ぶか」という問い。人は自分が選んだ損失には責任を感じるので、多くの場合そこで手が止まる。デビッドが No. Not stated that way. と言ったのは、内容ではなく言い方が変わったからだった。

言い換え

  • Is that trade worth it to you?
  • You'd be buying X and paying Y. Is that the call?
  • If that's the trade, I can live with it — I just want it stated.

本編36番で実際に使われています

3 提示された数字が動かせるかどうかを見極めたいとき。

NGWhy thirty percent? That is too much.

なぜ30%なんですか。多すぎます。

抗議になっている。相手は数字を守る側に回り、根拠を説明しなくなる。

OKWhat's driving the number?

その数字は、何で決まっているんですか?直訳「何がその数字を動かしているのですか」

相手の制約の出どころを探る型。数字の裏には必ず別の数字があり、そちらのほうが本当の制約であることが多い。30%は手段で、本当の目標は40万ドルだった。それが分かった瞬間、交渉できる変数が「率」から「金額と期限」に増える。相手を責めずに聞けるので、財務も素直に答える。

言い換え

  • Where does that number come from?
  • Is thirty the target, or the method?
  • What's the real constraint behind it?

本編38番で実際に使われています

4 要求の一部だけを変えたいとき。全否定を避けたいとき。

NGWe cannot do it. It is impossible.

できません。不可能です。

全否定なので、相手にはこちらを外すという選択肢しか残らない。

OKI can get you to four hundred thousand, but not by the first.

40万ドルはお出しできます。ただし1日には間に合いません。直訳「あなたを40万ドルまで連れて行けます。ただし1日までではありません」

部分的に応じる型。相手の要求のうち、飲めるものは全部飲んで、どうしても譲れない一点だけを外す。ここでは金額は満額どころか積み増して、期限だけを取りにいっている。全部を守ろうとする交渉は全部失うが、一点に絞った要求はほぼ通る。何を差し出すかを先に自分で決めておくのが前提。

言い換え

  • I can do the number. I can't do the date.
  • You can have the scope or the timeline, not both.
  • Yes to X, and here's my one ask.

本編40番で実際に使われています

5 その場で答えられないとき。時間を取りつつ立場を守りたいとき。

NGI need to ask my boss. I will report to Tokyo first.

上司に確認します。まず東京に報告します。

決定権が無い人として扱われる。以後の交渉相手は、あなたではなく東京になる。

OKLet me come back to you with two options.

2案お持ちします。直訳「二つの選択肢を持ってあなたのところへ戻らせてください」

即答を避けつつ、主導権をこちらに残す型。持ち帰りますではなく「2案持ってきます」と言うことで、次の会話の議題を自分が設計できる。しかも二択にすると、相手の選択肢はこちらが用意した範囲に収まる。上司に聞く、という言い方を避けるのが肝で、それを言った瞬間に交渉相手が入れ替わってしまう。

言い換え

  • Give me until Friday and I'll bring you two ways to do this.
  • Let me model two versions and come back.
  • I'll bring you a choice, not a request.

本編44番で実際に使われています

6 その場の流れで、範囲外のことまで確約を求められたとき。

NGNo. That is not possible.

いいえ。それは無理です。

永久の否定に聞こえる。将来の可能性まで自分で閉じてしまう。

OKThat's not something I can commit to today.

それは、本日はお約束できません。直訳「それは私が今日コミットできるものではありません」

断らずに断る型。否定しているのは「今日」であって、案そのものではない。相手は拒否されたと感じないのに、こちらは何も約束していない。会議の勢いで余計なものまで約束させられそうなときの防波堤になる。デビッドが correct と言ったのは、来月の話をしている場で10月を約束しなかったから。

言い換え

  • I'd rather not commit to that in this conversation.
  • Let's keep today's decision to next month.
  • I can't sign off on that one yet.

本編46番で実際に使われています

発音のポイント wanna / gonna

want to → /wɒnə/ going to → /ɡənə/ワナ/ガナ

I'm not gonna be able to do that by the first.アイム・ノッガナ・ビエイボー・トゥ・ドゥーザッ・バイザファースト

  • want to は必ず縮む:会話では wanna 以外の形はほとんど出てこない。going to も gonna
  • 聞くのは全部、言うのは選ぶ:相手は必ず崩す。こちらは崩しても崩さなくてよい
  • 交渉の山場では崩さない:金額と期限を言う一文だけは、はっきり切って言う。伝達ミスが命取りになる

崩した英語は「聞き取る対象」。自分が使うかどうかは、場面で選んでください。

本編スクリプト(全48発言)

英語を読んでから和訳で確認してください。印は KEY=覚える表現、NG=文法は正しいのに通らない英語、 SOFT=本音を包んだ遠回しの言い方です。

場面1 30パーセント会議室 34-B / 8:45 AM

1サラ

Before anyone opens a laptop. Corporate came back light. Every project takes a cut.

誰もPCを開く前に言っておく。本社の数字が落ちた。全プロジェクトが削減対象。

2デビッド

For us it's thirty percent, effective the first of next month.

うちは30%。来月1日から適用だ。

3エレナ

Thirty. We're mid-rebuild.

30。作り直しの真っ最中よ。

4デビッド

I know. I wrote the memo. It came down with Richard's signature on it.

分かってる。書いたのは私だ。リチャードの署名付きで降りてきた。

5マーク

Which line does it hit first?

最初にどの費目に当たる?

6デビッド

Contract engineering. Two heads. Which is Kenji's rebuild.

外部の開発費だ。2人分。つまり健司の作り直しだ。

7健司NG通らない失敗①

That is very difficult for us. Please reconsider.

それは我々にとって非常に厳しいです。ご再考ください。

英語ではほぼ無音。difficult も reconsider も、数字を1ドルも動かさない

8デビッド

Difficult isn't a number, Kenji.

厳しい、は数字じゃないぞ、健司。

9健司

We are only two weeks from finishing screens one through three.

1画面目から3画面目まで、あと2週間で終わるところなんです。

10マークKEY覚える今回は正しい

Hang on. Kenji, your sixty-one percent — is that all plans, or just self-serve?

待った。健司、その61%は全プラン? それともセルフサーブだけか?

マークの指摘は正確だった。この回、正しいのは彼のほう

11健司

...Self-serve.

……セルフサーブです。

12マーク

Self-serve is nineteen percent of revenue. You've been sizing this on the wrong denominator for three weeks.

セルフサーブは売上の19%だ。お前は3週間、間違った分母で規模を出してた。

13健司NG通らない

(健司は反論できなかった。マークが正しい)

この回、健司の分析には本当に穴があった

14サラ

Kenji. Take it to David one-on-one. Bring numbers, not adjectives.

健司。デビッドと一対一で話しなさい。形容詞ではなく数字を持って。

場面2 サンノゼ育ちデビッドのデスク / 11:00 AM

15健司

David. Do you have ten minutes?

デビッド。10分いただけますか。

16デビッド

Ten minutes. Sit.

10分だ。座れ。

17健司NG通らない失敗②

I thought that you and I... we might understand each other on this. We come from the same background.

あなたと私は……この件では分かり合えるのではないかと思いまして。同じバックグラウンドですし。

見た目で相手を分類した。交渉のカードではなく、相手を怒らせる材料

18デビッドKEY覚える核心

Kenji. I'm American. I grew up in San Jose. My Mandarin is worse than your English.

健司。私はアメリカ人だ。サンノゼ育ちだよ。私の中国語は君の英語より下手だ。

見た目が近いことは、文化を共有していることではない

19健司

I apologize. That was presumptuous.

失礼しました。思い込みでした。

20デビッド

It was. Now you have eight minutes. Let's talk about the number.

そうだ。残り8分。数字の話をしよう。

21健司

If the two engineers go, screens one through three do not ship.

エンジニアが2人抜ければ、1から3画面目は出せません。

22デビッド

And?

それで?

23健司

And that is bad for the product.

それはプロダクトにとって良くありません。

24デビッドNG通らない

"Bad" is still an adjective. Give me the dollar figure of what I lose by cutting you.

「良くない」もまだ形容詞だ。君を削ることで私が失う金額を出してくれ。

財務は「困る」では動かない。失う額でしか動かない

25健司NG通らない

(健司はその数字を用意していなかった)

守りたいものの値段を、自分で計算していなかった

26デビッド

Come back when you have it. That's not a brush-off. That's the actual instruction.

用意できたら来い。追い払ってるんじゃない。これが本当の指示だ。

27プリヤ

He said come back. That's David saying yes, by the way.

また来い、って言ったのね。ちなみにそれ、デビッドなりのイエスよ。

28健司

He asked for a number I have never calculated.

計算したことのない数字を求められました。

29プリヤKEY覚える

Then calculate it. And stop trying to win the whole thirty percent. Pick what you'll trade.

なら計算して。それと30%全部を守ろうとするのはやめて。何を差し出すか決めるの。

全部守ろうとする交渉は、全部失う

30健司

Trade what? Everything on the list matters.

何を差し出すんですか。リストは全部大事です。

31プリヤ

Then everything on the list gets cut equally. Choose, or he chooses.

なら全部が等しく削られる。あなたが選ぶか、彼が選ぶかよ。

場面3 取引にするデビッドのデスク / 4:20 PM

32健司KEY覚える本日の型

David. I understand the constraint. Here's what a thirty percent cut costs us.

デビッド。制約は理解しています。30%削減で我々が失うものを申し上げます。

まず受け入れる。抵抗ではなく、代償の提示から入る

33デビッド

Go.

どうぞ。

34健司

Screens one through three are eleven days from done. Cutting now wastes the twenty-two days already spent. That's ninety-four thousand dollars of work with zero output.

1から3画面目は完成まで11日です。今切ると、すでに使った22日が無駄になります。9万4千ドル分の作業が、成果ゼロで消えます。

35デビッド

Now that's a number. Keep going.

それが数字だ。続けろ。

36健司KEY覚える

If we cut the two engineers, we lose the eleven days and the ninety-four thousand. Is that a trade you're willing to make?

エンジニア2人を切れば、11日と9万4千ドルを失います。それは飲める取引ですか?

判断を相手に返す。最強の交渉型

37デビッド

...No. Not stated that way.

……いや。そう言われると、飲めない。

38健司KEY覚える

What's driving the number? Thirty is a very round figure.

その数字は何で決まっているんですか。30はずいぶんきりのいい数字です。

相手の制約の出どころを探る。多くの場合、根拠は薄い

39デビッド

Corporate wants four hundred thousand out of this floor by Q3. Thirty percent was the easy way to get there.

本社はこのフロアからQ3までに40万ドル削れと言っている。30%は、そこへ届く一番簡単なやり方だっただけだ。

40健司KEY覚える

Then I can get you to four hundred thousand, but not by the first of the month.

では40万ドルはお出しできます。ただし来月1日には間に合いません。

金額は飲む。期限だけを取りに行く。部分的に応じる型

41デビッド

By when?

いつまでなら?

42健司

Eleven days later. We ship screens one through three, then I release both engineers and the vendor contract. That's four hundred and twelve thousand.

11日後です。1から3画面目を出して、そのあとエンジニア2人と外部委託契約を解放します。合計41万2千ドルになります。

43デビッド

You're giving me more money and asking for eleven days.

金は増やして、11日をよこせと。

44健司KEY覚える

Yes. And if that doesn't work, let me come back to you with two options by Friday.

はい。もしそれが通らなければ、金曜までに2案お持ちします。

即答を避けつつ、主導権はこちらに残す

45デビッド

You won't need to. Eleven days. I'll carry it to Richard myself.

その必要はない。11日だ。リチャードには私から通す。

46健司

Thank you. One more thing — the vendor renewal in October. That's not something I can commit to today.

ありがとうございます。もう一点、10月の外部委託の更新については、本日はお約束できません。

断らずに断る。ノーと言わずにノーを伝える型

47デビッド

Noted, and correct. Don't promise October in a room about next month.

了解、それが正しい。来月の話をしている場で、10月を約束するな。

48デビッド

Kenji. This morning you brought me adjectives. This afternoon you brought me a trade. Fifty-two days left.

健司。今朝、君は形容詞を持ってきた。午後、君は取引を持ってきた。残り52日だ。

練習

まずはキーフレーズ6本を、声に出して2回ずつ。息継ぎなしで言い切れるまで繰り返します。

口の形アイ・アンダスタンザ・コンストレイント

ロールプレイ

状況を読んで、自分の英語を口に出してから答えを見てください。

場面1予算削減を通告された。抵抗ではなく、代償の提示から入りたい。キーフレーズ1

I understand the constraint. Here's what that costs us.

制約は理解しています。それで我々が失うものを申し上げます。

場面2代償を数字で出した。判断を相手に返して、手を止めさせたい。キーフレーズ2

If we cut the two engineers, we lose eleven days and ninety-four thousand dollars. Is that a trade you're willing to make?

エンジニア2人を切れば、11日と9万4千ドルを失います。それは飲める取引ですか?

場面3その場の流れで、範囲外のことまで確約を求められた。キーフレーズ6

That's not something I can commit to today.

それは、本日はお約束できません。

© 2026 | sin-eigo.com — 現場で通じるビジネス英語を、毎日ひとつ。